重症熱性血小板減少症候群ウイルス（SFTSV）

重症熱性血小板減少症候群（Severe Fever with Thrombocytopenia Syndrome：SFTS）は、ブニヤウイルス目のSFTSウイルスを保有するマダニに刺咬されることで発症するダニ媒介性感染症です。マダニの活動が活発になる春から秋に流行のピークを迎えます。臨床症状としては血小板減少を伴う発熱が特徴で、重症化すると多臓器不全で死亡するケースもあります。

SFTSウイルスの分類や名称は、国際ウイルス分類委員会（ICTV）において見直されています。2018年にはフェヌイウイルス科（Family Phenuiviridae）バンヤンウイルス属（Genus Banyangvirus）フアイヤンシャン・バンヤンウイルス（Huaiyangshan banyangvirus）に分類され、2020年にはフェヌイウイルス科バンダウイルス属（Genus Bandavirus）ダビエ・バンダウイルス（Dabie bandavirus）に再分類されました。また、2023年にはウイルス名が Bandavirus dabieense に変更されました。

SFTSウイルスは3分節1本鎖RNAウイルスであり、ゲノム分節は長い順にL、M、Sと名付けられます。LセグメントはRNA依存性RNAポリメラーゼ（RdRp）として働くLタンパク質をコードし、ウイルスRNAの複製と修飾を司ります。Mセグメントは糖タンパク質N（Gn）と膜糖タンパク質C（Gc）の前駆体をコードし、ウイルスの集合・粒子形成・標的細胞への吸着に関与します。Sセグメントはアンビセンス（ambisense）RNAであり、宿主の抗ウイルス反応を阻害する核タンパク質（NP）と抗インターフェロン作用を有する非構造タンパク質をコードします。

現在のところ、SFTSウイルスに有効な抗ウイルス薬やワクチンはありません。 Gnは広域中和抗体（Broadly Neutralizing Antibodies）として知られており、治療薬・ワクチン開発において有望なターゲットタンパク質です。